A:美女が成る木 ナリーポン
「ナリーポンの木」という、おとぎ話を聞いたことはあるかい?僕は、この話が大好きでね。だって、この木は「美女が成る」って言われてるんだよ?夢があるとは思わないかい?
だけど、夢のない博物学者たちは、口を揃えてこう言うのさ。それは食事中の食人植物を見た者が、誤解しただけだって……
さて、真実はどっちなんだろうね?
~ナッツ・クランの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
待ち合わせの場所に来たのは物腰が柔らかくて、ねちっこい話し方をするまだ若い男だった。
男はすぐにはあたし達のテーブルには来ず、少し離れた所からあたしと相方を足元から顔まで交互にジト―っと気持ち悪く眺めてから近づいて来て席についた。
出会いがしらから早速不機嫌になったあたしがつっけんどんに切り出した。
「で?頼み事って何?」
そんなあたしの態度にも臆することなく男はニヤニヤしながら口を開いた。
「君ら余所者だろ?レイクランドに伝わるおとぎ話を聞いたことあるかい?」
あたしはダルそうに首を振った。話し方や纏ってる雰囲気までいちいちあたしをイラつかせた。
「レイクランドに昔から伝わるおとぎ話にね、ナリーポンの木というのがあってね。僕は、この話が大好きなんだよ。だって、この木は「美女が成る」って言われてるんだよ。夢があるとは思わない?」
あたしは微塵も夢があるとは思わなかったが、時間を掛けたくない事もあって話の先を促した。
「凄く真面目で、でも愚鈍な男の話さ。その男は親一人子一人の家庭で育って、仕事一本で暮らしてきたんだけど、ある日彼の親が酷い病に倒れてね。医者ももう長くもたないって言うんだ。で、ある時彼の親がこういうんだ。死ぬまでにお前の子供が見たかったと。彼は親孝行な男だったんだけど、親からそう言われて初めて孫の顔を見せることが親孝行になんだって思ったわけさ。それで彼は急いで相手を探すんだけど、もうどうしても見つからなくて、途方に暮れてたんだ。すると彼が日頃から真面目で一生懸命だったことを見ていた女神様が夢に出てきて言うんだ。森に行けと。森の奥に美女が成る木があるっていうんだ。男はその木を見つけ、無事結婚して、孫の顔を親に見せる事ができましたって話。だけど、夢のない博物学者たちはさ、この話に口を揃えてこう言うんだ。それは食事中の食人植物を見た者が、誤解しただけだって……さて、真実はどっちなんだろうね?」
彼はそこまで言うと組んでいた足を反対に組み替えてテーブルの上の飲み物を取った。
「つまり、その美女の成る木を見つけろって事なん?」
相方が言った。
「正解。僕はこの話が好きでね。だってさ、その美女が成る木を見つけて栽培したら、自分だけの美女が次々産れて美女がいっぱい自分の物になるんだよ?」
あたしは呆れて席を立とうとした。すると相方があたしの腕を掴むと小声で言った。
「もう、…お金がないん」
あたしはあからさまに嫌な顔をして席に戻った。
「探すの手伝ってくれるよな?」
「ええ、まあ」
相方が曖昧な返事をした。するとこの男あろうことかテーブルに乗せた相方の手を両手で包み込むように握ると真顔で覗き込むようにしてと言った。
「ありがとう、君、僕のタイ…」
男は何かを感じ取ったように体を後ろに逸らして素早く手を引っ込めた。その彼の手があった場所に勢いよくナイフが突き刺さった。ナイフはテーブルの天板を貫いて刃の先が下から見えていた。
「ちっ」
あたしは本気の舌打ちをした。
「ごめんね、僕、亜人種はちょっと苦手なんだ」
男は追い打ちをかけるようにテーブルにナイフを突き立てているあたしに向かって言った。
こちらこそ絶対にお断りだ。
それから彼を含めたあたし達3人は3か月の間、レイクランドの森を毎日毎日、朝から晩まで徘徊する事になる。そしてようやく美女の成る木を見つける事が出来た。
欲望にまみれた彼が念願の美女の成る木を見つけた際に発した喜びの言葉をお送りします。どうぞ。
「成ってるんじゃないじゃ~~ん!喰ってんじゃん!」